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東京高等裁判所 昭和34年(け)26号 決定 1959年10月10日

主文

本件異議の申立は、これを棄却する。

理由

本件異議の申立の要旨は、原決定は指定期間内に控訴趣意書の提出がなかつたことを理由としているが、右は本件控訴申立人であり、かつ控訴審弁護人たる吉江知養に所定の控訴趣書提出期間の通知を怠つたことによるもので、かような正当手続を経ないでなされた。

しかし、本件において被告人のほかその原審弁護人たる吉江知養からも控訴の申立がなされていることは記録上明らかであるけれども、原審弁護人の控訴申立はもともと被告人のためなされたもので、訴訟当事者たる被告人の控訴としては一個あるに過ぎず、刑事訴訟規則二三六条一項前段にいわゆる控訴趣意書を差し出すべき最終日の指定通知をなすべき「控訴申立人」とは控訴を申立てた訴訟当事者たる被告人又は検察官を指し被告人のため控訴の申立をした被告人以外の上訴権者たる原審弁護人その他を含まないと解すべきであるし、また右吉江知養は控訴審においても被告人のため弁護人に選任されていることが記録上明らかであるけれども、裁判所が控訴趣意書を差し出すべき最終日を指定した当時はまだ所定の弁護人選任書が提出されていなかつたことが認められ、刑事訴訟規則第二三六条一項後段により右指定通知を受くべき弁護人は当該指定のあつた当時すでに控訴審における弁護人として選任されていた者に限り、たとえ必要的弁護事件にせよ、その当時被告人が弁護人を選任せず、また裁判所に弁護人の選任を請求することもなければ、裁判所としては進んで弁護人を選任する要なくそのまま被告人に対してのみ前記指定通知をなすを妨げないと解せられる(以上の解釈は従来判例の示すところでもある。所論指摘の最高裁判決は単に控訴を申立てた原審弁護人が控訴趣意書提出期間内に差し出した控訴趣意書を有効と解したにとどまり、かなような原審弁護人に控訴趣意書提出期間の指定通知をもなすべきであるとする趣旨まで含むとは考えられない。)から、原決定には何らの違法も存しないといわなければならない。

(その余の決定理由は省略する。)

(裁判長判事 兼平慶之助 判事 足立進 関谷六郎)

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